第12回日月会賞 報告

開催日:

2010年7月10日(土)

審査員:

審査員長/竹中健次(12期)、岡江正(16期)
審査員/橘伸興(2期)、寺田晶彦(16期)、田村恭意(29期)、船曳桜子(32期)、東條巌(42期)

日月会賞 受賞結果:

太陽賞 :河野明慧/高橋スタジオ
「Surf」

コンセプト
‘Surf’は神奈川県の三浦半島にある、美しい夕景で知られる長者ヶ崎を敷地とした、飲食と宿泊機能を備えた複合施設です。長者ヶ崎により多くの人が集い、長者ヶ崎をより楽しめるようにと、ビーチにひらかれたカフェ・レストラン、海を一望するホテル、そして屋根の上のテラスから成っています。テラスは丘のように緩やかな曲線を描き、山側の道から海へ抜ける公道、ホテルの各部屋から出入りできる宿泊者のみ利用可能なプライベートテラス、そして最上部のテラスは一般の人もくつろげるパブリックスペースとなっています。波をモチーフにしたシンボリックな外形の建物は、それ単体で孤立するのではなく、あくまでも周囲の環境によりそったものです。訪れる人の好奇心をくすぐり、時間がゆっくりと流れるひとときの癒しを提供する、長者ヶ崎という場を崩すことなく、よりその魅力を高める、そんな建築を目指しました。

受賞後の感想
今回の講評会で、日月会の方々に自分の作品を見ていただき、たくさんの意見をいただけてとてもいい経験になりました。そしてこのような会で賞をいただけたことをたいへん光栄に思っています。これにとどまることなく、これからも邁進していきたいと思います。ありがとうございました。



満月賞 :秋田真穂/ 高橋スタジオ
「さまよう」

海辺の敷地にホスピスを設計しました。
末期がん患者さんたちは迷いや不安を感じています。それを自分なりに考え、納得し、死を受け入れてほしい。患者さん一人ひとりがその時の気持ちに素直に過ごせるよう、思う存分悩み、さまよえるような建築を目指しました。「さまよう」という行為自体は終わりがなく、ぼんやりとしたものです。そのぼんやりとしたものをかたちにするために、敷地の背景を記号化して取り出し、全体のかたちを作るきっかけとしました。内部もぼんやりとした光で満たされています。そのぼんやりとした光の変化の中で自分なりの時を過ごしてほしいと思います。

今回の日月会に参加し、審査員の方達ととことん自分の作品について考える機会をいただけたことは、普段の授業の中では得られない、とてもいい経験になりました。プレゼンテーションでは「自分が引いたら負け」という気持ちで強気な受け答えを心がけていましたが、(生意気だとも言われましたが笑)実際自分の作品のまだまだ甘いところにもたくさん気づくことができましたし、この経験を今後の製作にも生かしていきたいと思いました。ありがとうございました。



三日月賞 :安藤静香/菊池スタジオ
「重なるまど つづく風景」

南青山にカフェとショップを併設したアートギャラリーを設計し
ました。
敷地周辺は洗練された街です。おしゃれな服や雑貨、建物はとても刺激的です。
しかし、ものと人との出会いは豊富でありながら、人と人との出会いが非常に少ないことにとても違和感を覚えました。
ここではアートとものが人と人との交流のきっかけになることを期待しました。
木の壁にランダムな開口を配置し、場の質と風景を多様化したことでギャラリーを飽きることなく歩きまわり、気軽に出入りでき
る(普段の散歩の一部のような)場所になってほしいと思いつくりました。

受賞の感想
一日に多くの方に個々にプレゼンすることが初めてで、とてもいい経験になりました。審査員の方と話していくうちに、だんだん
自分が本当にやりたかったことは何か分かってきました。また、自分に足りないものもたくさん気づくことができました。
これからの設計に生かしていきたいと思います。ありがとうございました。



新月賞 :山本宗典/ 高橋スタジオ

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第12回 日月会建築賞 審査委員長審査評
審査委員長:竹中健次(12期)

日月会賞の審査を終えて
講評

■ 太陽賞 :河野明慧/高橋スタジオ
河野君の作品は,海辺に建つ建物として海岸と道路の高低差をうまく利用して敷地を読み解きながら,建物の構成をしていると感じました。
道路から建物へリズムのある屋上テラスと通路の計画に建物と海の関係性を感じました。海辺からの動線や視因性も優しいウエーブで海岸を感じさせながら道路の向こうのロケーションを意識できるものだと感じました。建築が敷地の環境にうまくはまり込んで,楽しく綺麗なフォルムにまとまっていると感じました。また,女性らしい河野君の感性を感じました。

■ 満月賞 :秋田真穂/ 高橋スタジオ
秋田君の作品は,全体構成は,おもしろいものがありましたし,海辺からの床と屋根との関係性も構造体や仕上げの素材を多種にわたって組み合わせれば軽やかな建築物になると感じました。ただ残念なのは,RC造で考えているという話で妹島和世の「ロレックス・ラーニングセンター」や過去のウエーブした屋根構成の建築をイメージせざるおえませんでした。

■ 三日月賞 :安藤静香/菊池スタジオ
安藤さんの作品は,今でも建設可能な計画に見えて完成度が高かったと感じました。木質の壁とコンクリートの建築との関係性と大きく開けられた開口からの景色は,外部からも室内側からもおもしろいものがあると感じました。学生らしさが感じられませんでした。最近建築雑誌で取り扱われている開口をテーマにした建物を感じました。開口部のデザインはモダニズム建築のファクターだと考えています。ただ,ちょっと物足りなかったです。

■ 新月賞 :山本宗典/ 高橋スタジオ
山本君の作品は,見た瞬間に安部公房の「砂の女」を思いだしました。砂丘の中に町並みの路地を形成しているようで,発想はおもしろいと感じました。建物の機能として果たしていいのかというと,せっかくの敷地のロケーションを感じて建物を使うことが出来ない閉鎖性を感じてしまいました。建築は開かれるべきか閉ざされるべきか,海辺に建つ建物は開かれるべきだと考えています。

30年ぶりでの学内での講評会に参加できて感無量でした。3年生の前期課題としての精度の高さに驚きました。
残念なのは「ムサビイズム」を感じることが出来ませんでした。完成度は高いものを強く感じましたが,学生らしい荒々さや情熱が感じられないように思いました。我々の時代は「コピーは0点だ!」と言われて育ちました。どれを見ても雑誌に出ていそうなものや,説明も雑誌の受け売りの言葉が多かったと思います。武蔵野美術大学の建築学科は,全国でも珍しい建築デザインを教える専門の学科です。インテリアなら工芸工業デザイン学科があります。立体芸術を学ぶのでしたら,彫刻学科があります。学生時代に多くのことを学ぶことも重要ですが,私はアールヌーボ以降の建築を含めた国内外の美術運動を基礎から学ばせることが重要だと感じました。基礎が無く近年の建築や環境系のデザインばかりを学ぶことは,将来的な個性の創世の邪魔になると考えています。コピーをしたことすら意識できない学生の話を聞いて大変残念でした。産業革命以降の,国内外のことを知識として持つのは学生時代のベースだと考えています。日本建築史や西洋建築の授業もありましたが,同期の連中は皆,授業以上のことを勉強していたと思います。寺田教授が1年生のオリエンテーリングの時に「せっかく美術大学に入ったんだから,多学科の友達を作って色々な事を吸収してください。」と言われた言葉を思い出します。私自身,友人から多くの知識と情報をもらったことを今でも感謝しています。先生に直接的に教わることは少なかった思いますが,確実に先生の後ろ姿を見て多くを学びました。
「ムサビイズム」を学んだことで,地方都市の建築業界に流されることなく仕事を続ける事が出来ていると,母校に感謝しています。武蔵野美術大学の建築学科で学ばなかったら今日の私はないと言っても過言ではありません。

審査委員長:岡江正(16期)

日月会賞 審査評

太陽賞
この作品は、空間を構成する四次元性を豊かな感性と共に具現化している。特に海に面したホテルの機能をそのままに、社会性としての動線をルーフデッキとしてうまく処理している。この事は現在の個の建築と社会との関連付けの姿勢、ストローク(相手の存在や価値を認めるような様々な刺激)の問題を意味している。明快さが社会性を担うとは限らないといういい例である。

満月賞
この作品は、「海辺のホスピス」のサブタイトル通り、現代社会の最も深層な部分を建築を通して取り上げている。人間が最も恐れるのは、理解できない場面に接しようとした時(死という経験は誰もが未体験だから)である。そうした状況にある人にとって建築はどうあってほしいという願いを、この案は自由な心で形にしている。人は、ここで死んでも悔いはないという処を知っている。「悔いがない場所」としての建築は、心を生からの重圧から解き放す処に他ならない。そんな建築は、と思うが実は何処でも成り得る。それが建築の本質かもしれない。

三日月賞
この作品は、今回の応募作品の中で最もリアリティを感じるものだった。都心のギャラリーをスマートフォンのような実用性と楽しさを提供する建築とし、建築の一部とした3本の木は、ホスピタリティを高めている。しかしNYパーレイ・パークの木立の方がより自然に感じてしまうのは、きっと使う側に楽しむ為の慣れを要求するのかもしれない。

新月賞
この作品は、一時的に月が姿を消す、まさに新月のように暗さを持っている。しかしながら、この暗さは現代の作られた明るさや、マスメディア的商業性に背を向けた正当性を感じる。多数決が正しいとは限らないが、多数決で世界は動いている。残念ながら建築も。だからこそ頑張る必要がある。

総評
今回の審査を振り返ると(学生時代の自分を思い出しながら、竹山実賞授賞の審査委員長の一人として)、今の学生の方がより現実的なスタンスで建築を捉えていて驚いた。そして今回賞に入らなかった作品も含め共通して感じた事は、「それぞれの可能性の問題」ということを強く感じた(只、本人が気づいていないことも多くあった)。「可能性」は、自分の中にあるのではなく、社会の中にあるということ。そしてそれが「新しい建築」を探る手立てになるということ。そして「新しい建築」は、自分の中にあるということを。

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